つむぐ、Colorbath #10 Colorbathのこれから −吉川・椎木のまなざし(後編)

こんにちは、ライターの十文字 樹(じゅうもんじ たつき)です。

「Colorbathっていったい何をしている団体なのか?」
「何のために活動しているのか?」

そんな、私自身の疑問から始まったインタビュー企画「つむぐ、Colorbath」。
今回でついに、全10回シリーズの最終回となります。

前回、これまでの活動からお二人の関係性や共通の価値観を聞きました。
今回はその話をさらにこれからの方向性やスタンスへと発展させていきます。

吉川と椎木、それぞれの「人との関わり方」

十文字:それでは今回は、お二人の違いからお話を聞いていきたいと思います。お二人とも人との関わりを大事にしてプロジェクトを実施しているかと思います。しかし吉川さんと椎木さんの間で人との関わり方に違いがあるとのことですが、いかがでしょうか。

吉川:「関わる人の幅の“広さ”」と、「一人の人への関わり“深さ”」が、僕と椎木さんの間で違っていると感じていて、その違いがとても良いと思っています。僕は、プロジェクトを行うための新しいパートナーやフィールドを探すのが得意です。しかし、そこからその関係性を深め続けていくのを同時にやることが難しくて。そこで、生まれた新しい関係性が消えないように深く関わりを持っていくことが椎木さんは得意で、実際にその役割を担ってくれています。

椎木:そうですね。それぞれに得意なことや好きなことがあってそれを補い合っていますね。

Colorbathに関わる人たちの縁を深める「Colorbath展」

吉川:例えば、以前に学校で新しいプロジェクトの話をしたときに、僕が教員の方と意気投合し、この方と別のプロジェクトでも関わりたいと思ったとき、椎木さんにもその方に会ってもらって、新しい関わり方に発展したことがありました。

十文字:なるほど、補い合っているのですね。吉川さんが、Colorbathでの活動の目的の一つに恩返しがあるとのことでした。それは、今後は椎木さんのように関わってくれている方々のことを大事にしていきたい、といえるのでしょうか。

吉川:僕はこれまで広く様々な人と出会うことだけを重要視していたような気がします。それが、ちょっと変わってきたなと。Colorbathとして、僕は基本的には人の繋がりを広げることを担当するけども、一方で深さも大事にしてきたいと思うようになった、という感じです。団体立ち上げてすぐの時などは、とにかくいろいろなバックグラウンドを持った多くの人と出逢って自分の視野を広げる必要があると思っていて、生き急ぐような感じたったと思います。そんな振り返りから、焦って広げるよりも、きちんと関係を深めることも大事だと思うようになりましたね。

椎木:確かに私がColorbathに関わるようになった初期は、吉川さんは少し焦っているようにも感じました。それが最近になって、私も吉川さんもお互いのペースを理解できるようになってきたので、落ち着きを感じますね。2016年に吉川さんと出逢ってから約4年の付き合いになるので、ようやく互いの補い合い方を見いだせてきてますね。笑。

「Colorbathのわかりにくさ」について

十文字:では次にお二人が共通で考えていた「Colorbathのわかりにくさ」についてお尋ねします。前回は、Colorbathの特徴として「決めすぎないこと」が挙げられました。しかしそれは同時に、弱点でもあるとのことでした。これについてお二人の考えを聞かせてください。

吉川:Colorbathでの活動をする上で、それぞれのプロジェクトは今よりもわかりやすくなる必要はあると思います。それにより、より多くの人に理解されて応援されやすくなったり、関わりやすくなるかなと思います。そしてそれぞれのプロジェクトの根本にある価値観などは共通していますので、Colorbath全体のことも見えてくると思っています。

椎木:各プロジェクトについて、これまではあまり整理できてなかった結果、全体を把握するのが難しくなっていましたね。

吉川:Colorbathを立ち上げた時、それまで取り組んでいた「ネパールへの支援活動」と、Colorbathとして活動していた「国際的な教育活動」が一体化しました。このときにColorbathの活動を説明するためにも、Colorbathの全体像を磨いていました。その結果、いまでは「ソーシャルビジネス」という形に落ち着きました。そしてそこから、ネパールだけではなく、マラウイにも活動のフィールドをを広げやすくなったとも考えています。しかし現在は、これまで磨いてきた団体の活動から派生して、プロジェクトの数が増えてきました。一つ一つのプロジェクトとColorbathとしての全体像とのバランスを大切にしながら、それぞれのプロジェクトを磨いていきたいと思っています。

ネパールとのソーシャルビジネス:スマコレ

十文字:吉川さんはこれまでも「バランス」という言葉を使っていると思いますが、吉川さんが考えるバランスとはどういうことなのでしょうか。

吉川いろんな方向に向かって、同じ大きさの力で引っ張っている結果、安定が生まれる、ということがあると思っています。揺れないようにおとなしくしている、ということではなくて、互いに良い力で動き続けている、そんなイメージでしょうか。

十文字:なるほど・・・。「学習する組織」という書籍で有名なピーター・センゲさんが提唱する「クリエイティブテンション(創造的緊張)」という考え方に近いですね。

クリエイティブテンション(創造的緊張)

十文字:この図のように、理想的な「やりたいこと」と現実的な「できること」を同じ力で引っ張り合う状態を保つと、安定して創造的な活動に取り組むことができる、というものです。

吉川:なるほど。それは「やりたいこと」「できること」という二項でない場合にも言える気がします。例えば、一つのプロジェクトの中で、吉川が企業側を担当して、椎木さんが学校側を担当するようなイメージです。同じくらいの力で、違う方向のことをやっているように見えますが、その結果、全体としてはバランスが取れていることがあると思います。

十文字:なるほど。一人で一つの方向に引っ張るのではなくて、複数人で色んな役割を担い、それぞれが同じくらいの力で引っ張り合う、という感じですね。

吉川:A案を取るかB案を取るかというような二項対立ではなく、どちらもあってどちらも大事。プロジェクトに限らず、自分の人生と活動もそうだと思います。自分のためだけに活動しているわけではないし、ネパール・マラウイのためだけでもない。こういうイメージのバランスですね。

十文字:なるほど、プロジェクトでも、お二人のことでも、Colorbathは引っ張り合った結果安定感が生まれているような団体なのですね。

「Colorbath」に終わりはあるのか

十文字:Colorbathの活動について、第8回の記事で、吉川さんは「終わりはない、発展的解消があったとしても、想いをカタチにというスタンスがある。」というように答えました。椎木さんはいかがでしょうか。

椎木:二つの考え方があります。一つは、問題がなくなるのが理想だとしたら、Colorbathもなくなってよいと考えるもの。もう一つが、社会が変化し続ける限り問題はあり続け、同時に私たちの生き方も変わっていくということ。つまり、その状況に応じて、Colorbathは存在し続ける。問題の解決が目的であれば、問題がなくなったとき活動を終えると思います。でもColorbathは人をターゲットにしており、人の考え方は無限にあるので完遂するとしてもずっと先のことだと思いますね。

十文字:なるほど。今のように活動を続けていくと終わりはないだろう、ということですね。では、お二人それぞれは今後の人生でどのように関わるのでしょうか。

椎木:そうですね。「Colorbath」として働いているような感覚がなくて、自分が活動するフィールドとしてのColorbathがあるような感じです。今後は、私生活でも育児と仕事の両立が必要になることもあると思うので、その時その時にやれることをやっていく。そして、自分だけではできなくなったとき、一緒に取り組む人を増やす、自分の役割を引き継いでくれるような人を探すかもしれないですね。ネパールとマラウイのプロジェクトであれば、そうなることを見越して、現地の人を育てることも大切だと思います。自分のライフスタイルに合わせて関わり方も変わっていくと感じています。

マラウイのウォンガニ先生は、現地で一人でDOTSに対応し始めている

吉川:わかります。僕はどこまで働くのかとかは考えていないけれど、たぶん一生働くのではないかと思っています。働くというより、生きる、みたいな感じかもしれません。自分が属しているアイデンティティやスタンスのように、コミュニティとしてのColorbathがあり続けるような。ただ、具体的にやるプロジェクト自体は変化していくのは間違いないと思います。そしてプロジェクトが続いていくことを考えると、自分たちが関われなくなる時に、誰かに引き継いでもらう必要はありますね。

十文字:なるほど。プロジェクトごとに見ると、自分が関わることができなくなる場合は誰かに引き継いでいく必要がありますが、Colorbathというコミュニティという視点では、一定のスタンスが共有された場のようなもので、例えばお二人の手によって続かせるものでも終わらせるものでもない、というわけですね。

「みんながやっていることと同じことをやる必要はない」の意味

十文字:では最後に、はじめのインタビューで吉川さんが仰っていた言葉に立ち返りたいと思います。「みんながやるようになったものはやる必要はない」と仰いましたが、これが意味するところを教えてください。

吉川:僕たちは「みえる世界をひろげる」ために活動しています。なので、すでに多くの人がやっていることだとしたら、みえる世界はすでにひろがっているということですから、Colorbathが改めてそれをやる意味はありません。みんなと同じことをしていても、多くの人の「みえる世界をひろげる」ことは難しいと思うんです。一方で、一部の人にしかできていないことを、誰にでもできるようにしたいと考えていることもあります。例えばDOTS(WEB交流)はその代表例ですね。

椎木:DOTSの運営自体は誰でもできるようになることを目標に活動をしていますが、もし誰でもできるようになった時には、自分たちの関わり方を変えることも必要です。できる人が増えるのはいいことですが、その結果、些細なことだけど大事なことを見落としたり、本質が見えなくなってしまったりすることがあると思うんですよね。その時には補助したり、本質を伝えたりすることが、次の仕事になるのだと思います。そのようなこともみんなでできるようになったら、私たちは何もしなくてよくなりますね。

おわりに

インタビューが始まったのは半年ほど前になります。そのころはColorbathについては、国際協力のような活動に取り組んでいる団体だとは思っていましたが、なにを大事にしているのか、目標はどこにあるのか、想像もできませんでした。ただただ不思議な団体でした。

十文字が吉川さんを知ったきっかけは、吉川さんが大学に外部講師として講義をしていたことからでした。その時僕は吉川さんに質問しました。

海外への教育支援は現地のためになるのでしょうか。押しつけにならないですか?

5年越しに吉川さんの回答が意味するところが分かった気がします。

現地の人たちにどれだけ寄り添えるかが大事です。どれだけ想いをくみとることができるか、です。

吉川さんとともに活動する椎木さんも、マラウイへの思いから日本での活動をはじめました。

おそらくお二人に限らず、「想いをカタチに」という軸はColorbathに関わる全ての人に共通する価値観だと思います。

それが「Colorbath」というスタンスであり、アイデンティティなのでしょう。

全10回の記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。

とはいえColorbathについてわかったことはあくまで一側面でしかないと思います。

ぜひこれからも、Colorbathのイベントなどを通して、みなさんの「Colorbath」を見つけてください。 ありがとうございました!

予告:つむぐColorbath「総集編」を開催します!

全10回にわたる連載を終えて、吉川・椎木・十文字に加えてゲストを招き、つむぐColorbathを振り返る座談会イベント(オンライン)の開催を予定しています。

今回の連載は、吉川・椎木がインタビューを受けるという形で、その背景にあるColorbathについての価値観を明らかにする、という実験でもありました。

自分たちでも連載を読み返しつつ、これを読んだ第三者(ゲスト)の視点も交えて、Colorbathのこれからについてお話したいと思います。

開催時期:2021年3月下旬ごろ(予定)