2024年6月30日深夜、ネパールから日本へ向かう飛行機の中は、多くのネパールの若者が搭乗しており、初めての飛行機、ずっと夢見ていた日本、日本語学校で共に学んできた友人との長旅、大きな期待とほんの少しの緊張感に包まれていました。そんな雰囲気の中で、1ヶ月のネパール滞在を終え帰国の途に就く私は、飛行機の隣の席に座るネパール人の彼に一体どんな未来が待っているのか、考えずにはいられませんでした。
(執筆:Colorbathインターン生 大友)
■はじめに
私は、5月25日から5週間ネパールに滞在し、Colorbathと現地パートナー IGC BUSINESS HOLDING(以下:IGC)が共同運営する日本語学校「大日本学園」(以下:大日本)で現地インターンシップを行いました。IGCは、2000年より日本へ人材の送り出し事業を開始し、Colorbathはそのパートナーとして外国人材キャリア支援のプロジェクトを行っています。この記事では、インターン期間中の活動の様子と、ネパール滞在中そして帰国した今、感じたこと・考えていることをお伝えできればと思います。
■日本語学校での仕事
今回のインターンで私は、面接練習、会話、特定技能の職種の1つである「航空」の3つのクラスに関わらせていただきました。
面接練習のクラスでは、介護の職種で来日予定の生徒に対し、日本企業との採用面接の練習を行いました。自己紹介、長所・短所、趣味等日本の面接でよく聞かれる質問を生徒たちに提示し、模擬面接を繰り返すという形で進めました。また、入退室の仕方や適切な服装といったマナーについても説明しました。このクラスが私にとってはじめてのネパール人生徒と接するクラスだったのですが、質問に対する回答をノートに書いては添削することを何度も繰り返したり、発音の難しい単語を家で練習してきたりと、みんなとても真面目で頑張り屋さんという印象で、日に日に日本語での面接が上手になっていくのを感じていました。
会話のクラスは、毎回「好きなこと」や「家族」、「住んでいるところ」などテーマを決め、関連する質問や答え方を用意し、できるだけたくさん生徒に話してもらうことを意識して授業をしていました。また、毎回多くの写真も用意し、日本の様子を伝えることも心掛けました。わたし自身、教壇に立つ経験がほぼなかったため、授業内容も含め日々試行錯誤の連続でしたが、最初の頃はあまり自信がなさそうで、すぐに近くのクラスメイトにネパール語で確認していた生徒が、数日後大きな声で答えてくれたときはとても嬉しかったです。
そして、1番多くの時間をかけて取り組んだのが特定技能「航空」のクラスです。特定技能のビザを取得するためには、その職種の知識があることを証明する試験の合格が必要です。その試験の対策として開講されたクラスでした。空港で地上作業員として働くために必要な技能を教えます。元々ネパール人の先生2人と、インターン生の藤井が中心となって行っていましたが、そのサポートとして私も入らせて頂きました。はじめの頃は、毎日の小テストやクイズのスライドなど、教材作成がメインでしたが、終盤は授業での解説も担当しました。やさしい日本語とネパール語で「航空機の操縦席からの死角」や「持ち込み禁止の危険物を示す表示」など専門的な概念をかみ砕いて説明することはかなり難しかったですが、無事今期のクラスをすべて終えることができ、その際には大きな達成感を感じました。
■彼らが日本語を学ぶ目的
大日本で授業をしたり、ネパールで多くの人と関わったりするなかで、ネパール人である彼らや大日本のスタッフ達と日本人である自分の考え方やバックグラウンド、常識の違いを痛感して、考えさせられることもたくさんありました。
なかでもいちばん考えさせられたのは、彼らが日本語を勉強している目的。もちろん日本で働くため、お金を稼いで家族に仕送りをするためだということを分かってはいるのですが、そのもう一段階フェーズを下げた「今、日本語学校で日本語を勉強する目的」の部分で、日本人として考える理想とネパールでの現実とのギャップにたくさん考えさせられました。
面接や会話のクラスをしていて、「教科書」の中にある文形やことば、想定質問に対して考えてきた答え方はすらすらと出てくるのに、聞き方を少し変えたり、その答えに対してプラスで質問をすると全く話せなくなってしまう。
航空のクラスをしていて、教科書の中から本番の試験に出るものだけ教えて欲しいと何度も質問される。
生徒の中には、家族に病気の人がいて治療のためのお金を稼がなければいけないという人や、まだ幼い子どもがいながらも自分が日本で働かなければ家族の生活が成り立たなくなってしまうため日本に行かざるを得ないという人もおり、どうにか次の試験に受かりたいという気持ちは痛いほど伝わってきました。また、働きながら日本語学校に通っている人も多く、時間や割けるリソースにも限りがあります。しかし、そういった背景も相まって生徒たちのゴールつまり学ぶ目的が「日本に行くための試験に受かること」になってしまって、そのために、勉強の中心が教科書に書いてあることや試験範囲のことだけを「覚える」というところに置かれてしまう。使っている教科書は日本での暮らしを意識した教材だけど、生徒たちのなかでは日本語学校を卒業した先にある現実の日本人が話す日本語や、来日後の暮らしにスポットライトは当たっていないのではないか。そんなふうに感じる機会が何度もあり、そのたびにどうすることもできない自分のちっぽけさを感じました。
■ネパールの地で日本を身近に感じてもらうためには
では、「日本語」という入口から入る「日本」を、もっと身近に、解像度を高く生徒の皆さんに感じてもらうためにはどうしたらいいのか。この問いもたくさん考えました。やっぱりネパールにほんの僅かな期間しか滞在していないただの女子大生に思いつくこと、できることは限られていて。ただ、「より多くの日本人と接する」というのは有効だと思いました。方言を使う地方出身者、子ども、お年寄り、色んな属性の人となら、なお良いと思っています。また、アニメなどで日本の日常のイメージを掴むこともありだと思います。ネパールでは、ドラえもんや忍者ハットリくん、あたしンちなどの日本のアニメが放映されているそうです。生徒の中には、そういったアニメで日本という国を知ったという人もいました。ネパールで見られるものは、ネパール語で吹き替えがされているそうなので、日本語版の映像を教材として活用したり、日本人と一緒に鑑賞会ができたりするとより楽しく学べるのではないかと思いました。
■振り返って思うこと
この文章を書いているのは、帰国して少し時間がたってからなのですが、ネパールでのことを人に話してフィードバックをもらったり、改めて振り返ったりする中で考えたことも追記します。ここまで、たくさん私が感じたこと、考えたことを書いてきました。こういう現状があるから、こうしたら良くなる、こんなことをしたいと思う。けれど、それはあくまでも外部者である、インターンをしている「私」が思うこと。きっと時間と実現させるに十分なリソースがあって、私のアイデア全てをできるとしても、生徒や大日本側にそのニーズがなければプラスにはならないのです。現場で、当事者である生徒の皆さんや先生方がどんなことを感じていて、何を必要としているのかを知ることは前提条件で、私の滞在にそこまで考えられる余裕はなかったなと感じました。そして、だからこそコミュニケーションや相手との関係性を築いていくことが物事を進めるうえでとても重要で、これらのことなくして物事が上手くはいかないのだと思います。
現場に身を置いて、リアルを目の当たりにして、自分の無力さを痛感して、何か自分にできることはないかと考える時こそ、ひとりにならない方がいいなということも感じました。これまで、私は、できるだけ自分でやりたい!やらなきゃ!という気持ちが強く、人に頼るということに苦手意識がありました。けれど、ひとりで考え込んだり、全てのことをこなそうとすると、身体的にも精神的にもしんどくなるし、ぎりぎりまで粘って結局できなかったとき、他の人に余計に迷惑をかけてしまいます。逆に、早い段階で積極的に状況を共有してみると、自分にはなかったアイデアを思いがけず得られることもあるし、この仕事は私がやるよと適材適所に役割や仕事を分担することもできます。今回の滞在期間中、慣れない環境下で初めてチャレンジする「誰かに授業をする」という仕事に対し、思い悩むことも多々あったのですが、Colorbathスタッフの皆さんや同じように海外で授業をした経験のある友人達に現状を共有し、たくさん協力してもらいました。日本語学校での私の働きが、一方的な支援にならないためにも、よりよい効果をもたらすためにも、ネパール人、日本人、生徒、教師関係なくたくさんの人を巻き込んで、いろんな意見をもらって、やってみて。そんなトライ&エラーで進んでいくことに意味がある。これからの人生に活かしたい学びを得ることができました。
■日本は『夢の国』
生徒から言われた言葉で、私の心に刺さっているものがあります。
それがこの「日本は、夢の国だと思います。」という言葉。
彼らは日本に夢を見て、日本に行けば幸せになれると信じて来日するわけですが、日本社会の実情はどうなのか。
そもそも日本語がまだ完璧に使えるわけではない外国人が、日本の見えないマナー(あたりまえ)に馴染むことはとても大変で、その大変さに寄り添うあたたかいサポートが受けられるとも限らないこと。日本人は優しいと彼らは言うけれど、実際に在留外国人と積極的に関わろうと思う日本人は少数派だということ。昨今、外国人共生や多文化共生という言葉を耳にする機会は増えていますが、まだまだ環境として完璧ではないこと。
きっとネパール人が考える日本とはギャップがあって、そんな現実に対して、自分はどうアプローチできるのか、ぐるぐると考えてしまいます。
今の自分にできることは、日本社会を客観視できる目を養うことと、覚悟を持つための準備をすること。前者は、大学を休学している今年度の目標でもあります。世界情勢や経済の知識を増やしたり、国内外問わず社会問題を知ることで、何気なく暮らす日本という国を理解する。そして自分自身が海外に身を置いて、外国人として生活する中で見つけた気づきや感じたことを、それは日本だとどうだろう?と問うてみる。日本で生まれ、生活してきたからこそ当たり前になってしまったり、意識できていない部分を改めて捉えられるようになりたいです。そして後者は、ネパール滞在中にZoomでお話を聴かせていただいた日本の社会人の方に言われた一言です。九州のとある県で地域に根差した事業を行っているその方は、日本や地元のためになる仕事がしたい、人の役に立ちたいと口で言うのは簡単だけど、いざ仕事にする、何か行動を起こすのなら「覚悟」が必要だ、と仰っていました。その通りで、今の私には足りないものだと思います。本当にやりたいことが見つかったとき、本気で、覚悟を持って臨めるように、今できることに一生懸命取り組んでいきます。
「自分がこの社会に対してどうアプローチできるのか」という問いは、まだ答えがでません。そもそも決まった正解がある問いではないけれど、これからも考え続けたいなと強く思います。
■おわりに
これまで私は、広報担当として約1年間Colorbathに関わってきました。その中でたくさん見てきたネパールの写真たち。今回の渡航で、その写真の中の世界に、レンズの向こう側に自分が存在できたことがとても嬉しかったです。生徒からネパール語やネパールの文化を教わったり、IGCのスタッフ達に誕生日をお祝いしてもらったり、休日に世界遺産の寺院を観光したりと今回の記事で触れられなかった出来事がたくさんあります。日本では感じ得ないたくさんの考えるきっかけと、多くの人との出会いをいただき、本当に貴重な時間でした。
今後、日本にはさらに多くの外国人、特にネパール人が訪れ、働くと予測されており、少子高齢化が進む日本の未来は外国人なくして成り立たなくなるというデータもあります。それが何年、何十年後かは分かりませんが、きっと訪れるそんな未来で、どう社会や人とつながって生きていくのか、そして「多文化共生」とはどうあるべきなのか、多くの人と一緒に考えていきたいです。私は、未来の日本を人種や性別、障害の有無などあらゆる違いによらず、その人がもつ可能性を最大限ひろげていける社会にしたいと考えています。理想論かもしれませんが、そのためにできることを見つけていきたいし、自分自身ができることを増やしていきたいです。そして、大日本の生徒達も、帰りの飛行機で隣だったネパール人の彼も、日本で彼らの未来に描く夢へ近づけますようにと祈っています。
最後に、今回の渡航に際してお世話になったすべての皆さま、ありがとうございました!
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